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イラストレーターになったのは。(その4)ーじゃこめてい出版・青木太郎さんのことー

大学卒業後は母校の中高で専任で教員をしながら、時折イラストの売り込みに行っていました。

どこへ売り込みにいけばいいんだろう...?
考えた末、出版社とは「相性が大事」かも...というので、自分が本・雑誌をよく購入している出版
社や編集部を廻ったものでした。

その中で、自分の本棚にかなり並んでいたのがじゃこめてい出版というところの本。
当時、暮らしに関する本といえば、まだまだ実用一点張りでセンスもへったくれもないものがほと
んどでした。その中で、大橋歩さんとか、クニエダヤスエさんほか、イラストやグラビアも上品で
夢のある「暮らし」のエッセイ本を出していたのがこの出版社でした。
新刊本が出ると、クロワッサン(マガジンハウス刊)の新刊本コーナーでたびたび紹介されてもい
ました。
そこで、電話で連絡を取って編集長の青木太郎さんに会っていただくことに。
行ってみると、水道橋の片隅の小さな部屋を棚で仕切って、奥ではアルバイトっぽい女の子たち二
人ほどが本の在庫の管理をしており、その手前が編集室。青木太郎さんと、もう一人物静かで暖か
い雰囲気の女性が片腕として編集の仕事をなさっている以外、スタッフは見かけないのでした。


イラストレーターになったのは。(その4)ーじゃこめてい出版・青木太郎さんのことー_f0063645_2316659.jpg青木さんは会社の名前通り、アルベルト・ジャコメッ
ティの彫刻
そっくりのシルエットで、電信柱のように
立っていました。
さらに、顔色は土気色、常に苦虫を噛み潰したような
しかめっ面。少しだけ訛のある皮肉っぽい喋り方で
「なんでここに来た?うちは主にセツ(セツ・モード
セミナー)
出身の人に描いてもらってるんだけど...」
と、腕組みしながら私のポートフォリオを見てくださ
いました。
渋い顔のままで「はい」とポートフォリオを返してよ
こしたので、こりゃあ脈なしか...と落胆しましたが、
ほどなく連絡が入り仕事をいただいたのでした。

「打ち合わせがてら、なにか旨いものでも食べにいき
ましょう」と言われ、トボトボついていくと
「何がいい?寿司、ちょっとした定食屋、○○、××...
色々あります。神田界隈は。」
「あ〜、おススメの美味しい店なら何でもいいです。
好き嫌いはありませんから♪」
....と答えた途端
「ぼかぁ、そういう言い方をする女が一
番嫌いなんだ!!大体何でもいいとか言
いながら、そういう女は必ず文句言った
りするんだ!」
と怒り出す始末。




(なーんですってぇ!?ちょっとちょっと、はじめての場所でどの店が美味しいかなんか私にわか
るわけないでしょーが!!私は、何でもいいけどおいしいものが食べたいんだし、ほんとに何でも
食べられるって言ってるのにー!そのうえガキ臭い私を捕まえて『オンナ』呼ばわりするのも腹が
立つ!)と、プンプン腹を立てていたのも懐かしい思い出。

イラストレーターになったのは。(その4)ーじゃこめてい出版・青木太郎さんのことー_f0063645_2350244.gifイラストレーターになったのは。(その4)ーじゃこめてい出版・青木太郎さんのことー_f0063645_23503994.gifイラストレーターになったのは。(その4)ーじゃこめてい出版・青木太郎さんのことー_f0063645_23505545.gif←この辺りが私がイラストを担当した本で、まだ販売
されているらしきもの。何冊もお仕事をいただき、何
年ものお付き合いになりました。

二回ほど、イラストエッセイ本を出さないか、文は僕が見てあげるから...と企画をいただいたので
すが....自分の書いた文章を読み返すと吐き気がするほどひどいし、人としての中身も中途半端。時
期尚早に思えたので...のらりくらりして、潰してしまいました...。

その後、二人三脚で頑張って来られた女性編集者が、病気で呆気なく亡くなってしまい、青木さん
は一回りも二回りも小さくなってしまわれたかのようでした。

ある日、「僕は、もう自分の体もいけない気がするし、色々整理することにしました。会社も引き
継ぐ人を見つけたし、一人でフリーで...ま、なんとかやっていくことにします」とボソボソ語られ
「ところで、僕はね、今とても有名になっている女性たち...三宅菊子さんとか、大橋歩さん、西村
玲子さん...他にも何人も育ててきました。僕がこれはと目を付けた人はみんな有名にな
った。ならなかった見込み違いはねえ...あなただけですよ
...。
」と溜め息。

イラストレーターになったのは。(その4)ーじゃこめてい出版・青木太郎さんのことー_f0063645_0295020.jpg
がーん!そんな...。何一つ、期待されてるとか気に入られてるとか思いま
せんでした。自信がなさ過ぎて、イラストエッセイの話も潰しちゃったんだし。

自分にそんな実力があるかどうかは別として、期待をかけてくださったのに裏切って悪かったな...
と思いました。いえ、青木さんは大して深い意味もなく仰ったのかもしれませんが。
青木さんが会社を引退してしばらく、音沙汰はありませんでしたが、突然「頼みたい仕事があるか
ら、○月○日に会えませんか?」と電話をいただきました。詳しいことはまた連絡しますと仰るので
待っていたのに、その日になっても連絡はナシ。私も青木さんの連絡先は知らず...。

当日、ファックスが入ったので、やっとお知らせかな...と思って見てみると
「青木太郎 通夜・告別式のお知らせ」....と。あとになって聞いたのが間違いでなけ
れば、一人暮らしで、酔っぱらって団地の階段で転倒して亡くなったのだと...。

それから、ずーっと、ずーーーっと、文章が書けないっていうことを気にしてきました。ブログを
始めたのも、文を書く練習になるかしらというのがありました。
双葉社の「ハッピーハッピー台湾」で、こっそり見開き2ページ分の文章を書いたときも、今書かせ
ていただいている「広告月報 That's NEW」のページの拙い文章も、青木さんの顔を頭の片隅で思
い浮かべながら書いています。
のろいけど、いつか自分のイラストに、文章をつけて発表できるようになりますから。次の課題の
一つです。

...と書きながら、長くなり過ぎた文章にぐったり。
by kadoorie-ave | 2007-08-20 01:06 | 思ったり、考えたり...
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